しっかり読みとって自分たちの独自の音楽を 〜田中信昭 (合唱指揮者)〜

作曲家・柴田南雄さんは、 もう皆さんご存知のことと思.いますが、 東大の出身で、しかも理学部と文学部を両方、 つまり二度卒業しておられる。 云わぱとび切りの優れた知識人でした。

幸運にも柴田さんと出遭えたおかけげで、たくさんの氏の作品を演奏し、計り知れない貴重な多くのことを学ぷことができました。長い年月の中で、ー度だけ柴田さんがふと云われた言葉が心に残っています。
「音楽って知的遊びでしょj ・・・。
《風》は、その柴田さんが32歳の頃の作品。


演奏とはなにか
ある曲に出会う。その素晴らしさに感動し、ぜひ自分たちも演奏したいと思う。
皆で練習しているうちに、何と素晴らしい曲なのだろう、その素晴らしさを他の人々にも知らせたい、聴いてもらいたい。そこでメムバーと相談し演奏の機会を作り、人々を招いて聴いてもらってその人たちと喜びを分かち合う。これが演奏行為というものでしょう。

コンクールとは
コンクールも演奏です。戦いではありません。しかし審査員がいます。つい他の団体より上手く演奏して、よい順位を得るにはどうすべきかということにとらわれがちです。それは人間だからやむを得ないことでしょうが、演奏とは何かということから逸脱しないようにした方がいい。

演奏を作るためには、演奏に参加するメムバーはみんな自分でこの北原白秋の詩をよく読む。何度も。詩の気分ではなく詩の表現している意味を読み取る。自分で歌ってみる。何度も皆で歌ってみる。何度も相互に聴き合ってみる。毎日楽譜を読んでいると、曲は日によって異なる様相を示してくれます。音楽に正解はありません。自分は今何を伝えたいのかを表現するのが演奏でしょう。

メンバーの一人一人は、自発的に自分の歌を歌うこと。そしてそれが他のメムバーに音楽的な良い影響を与えているかどうかを確かめながら相互に協力してよいアンサンブルをつくることを心掛ける。それにコンクールの曲だけでなく、毎日他の優れた曲もたくさん歌うことも音楽的に成長するために大切です。また、技術は肉体的なものですから各自の普段のトレーニングは不可欠です。

指揮者は客観的に聴いている唯一の人(演奏者)。現状をさらによくするには、何をなすべきかを聴き取り、考え、皆に伝えてより良い方向へ導く。指揮者は、練習場やステージ上で起こるすべての音楽的現象の責任をとる係です。

さあ皆さん!コンクールの本番でも楽しんで、<これが自分たちにとって今一番気に入っている表現です。聴いてくださる皆さん(審査員も含めて)、この素晴らしさを聞き取っていただけるでしょうか!>と新鮮な演奏をくり展げてください。

2010年春